ミュンヘンの思い出①〜ビアガルテン

 

10月に入って、秋の風がさわやかに感じられるようになる頃、

去り行く夏と共に、ふと遠いドイツ、懐かしいミュンヘンの

日々を思い出す。

ちょうど今頃、ミュンヘンでは、世界最大のビール祭りである

「オクトーバーフェスト」が開催されていることだろう。

 

緑の木々の木漏れ日の下、のんびりと時を楽しむ人々が集う

「ビアガルテン」は、ミュンヘンでの留学生活の中で

最も印象深く残る光景の一つである。

 

ミュンヘンの市内にはたくさんのビアガルテンがある。

「ビアガルテン(=ビアガーデン)」とは、

日本のようにデパートやホテルの屋上にあるようなものでは

なくて、屋外の緑に囲まれた庭や公園のような雰囲気で、

マロニエの木などの木陰にテーブルとベンチが置かれ、どちらかというと、カフェテラスのような気軽さがある。

子供からお年寄りまで、そして昼間から陽気に盛り上がっている赤ら顔にビールっ腹のおじさんといった

様々な人たちが思い思いに時を過ごしている、そんなのどかな市民の憩いの場を街の至る所で見ることが

できる。

 

ドイツ人はとにかく良くビールを飲む。ビールは基本、1リットルジョッキで出され、

ふくよかで陽気な、民族衣装に身を包んだウェイトレスが、両手いっぱい黄金色の飲み物の

入ったジョッキを持てるだけ持って歩き回る様は、見ているだけでも圧巻である。

そして、客は一人当り数杯のジョッキを次々と空にしていく。

 

ドイツで飲むビールは、日本で飲むビールほどキンキンに冷えておらず、炭酸も強くない。

それを水のように流し込んでいく。種類もたくさんあって、今でこそふつうに見かける黒いビールも、

初めて見た時は、大変驚いたものだった。

ビールのみならず、ノン・アルコールのドリンクも独特で、アップルジュースを炭酸水で割った

「アプフェルショーレ」やコーラをオレンジレモネード(ファンタオレンジ?)で割った

「シュペッツィ」といった珍しい飲み物があり、割る分量によって味が違ったりするのもおもしろかった。

 

ビールと一緒にいただく料理はダイナミックだ。代表的なものは、ミュンヘン名物「ヴァイスヴルスト

(白ソーセージ)」。白くて大きなソーセージを茹でていただく。

ソーセージと言えばお弁当のウィンナーかホットドッグぐらいしか知らなかった私にとって、

フォークとナイフを使って外皮を取りながら甘いマスタードと共に食べる白いソーセージは、

とても珍しく、ドイツの味を知った気分だった。

唐揚げならぬチキンの丸焼き、スペアリブといった豪快な肉料理に、フライドポテトやクヌーデル

(ジャガイモのお団子)などの様々なジャガイモ料理。自分の顔より大きなプレッツェルは、

外はカリッと香ばしく、中はもっちりとしていて、表面についている岩塩の粒をとりながら食べるのが

楽しかった。

 

素朴で飾り気はない、しかし、素材にこだわり、手間のかかる料理の数々・・

そういう食文化が、ビールと共に「ビアガルテン」という一つの街の光景を作り出していったのだろう。

その気質は、ドイツ音楽にも通じるものがあると思う。

 

時は流れ、今では日本でも、コンビニに行けば様々な種類のビールを気軽に楽しめる時代になり、

正直、ドイツのビールよりおいしいかもしれない。だけど、ビアガルテンで飲むビールには、

ただのビールを超える価値があるように思う。そこには、味わい深さやなつかしさ、

隣り合った見知らぬ外国人すら一緒になって共に楽しめる空間があって、何より人の温かさが感じられた。

バイエルンの人々の大らかさに、孤独な外国人留学生は、幾度もパワーをもらい、救われたように思う。

 

オクトーバーフェストが終わると、ミュンヘンでは本格的な冬支度が始まる。

学生たちは新学期が始まり、気持ちを新たに、また厳しいレッスンに明け暮れるのだった。